(ヴァシリ・ミハイロヴィッチ・ゴローニン)”

われわれは、

外国との交流をいっさい避けようとする日本の政策を非難した。

そしてヨーロッパ諸国が相互の交流から

大きな利益を得ているということを、いくつかの例を挙げて説明した。

たとえば、われわれは他の国の発明や発見を利用し、

お互いに生産物を取引している。

これによって産業は促進され、

ヨーロッパ人は豊かで快適な生活を楽しんでいる。

これが、もし日本のように、他国とのあらゆる交流を断絶したら、

いったいどうなっただろうか…。

一口に言えば、われわれの政策を自画自賛し、日本の政策を非難し、

この問題について本で読んだり、

人から聞いたことを思いつくままに述べたのだ。

日本人は注意深くわれわれの話しを聞き、

ヨーロッパ諸国の政策が賢明であることを認めた。

彼らはわれわれの議論に説得され、

完全にわれわれの意見に同意したように見えた。

ところが、次第に話題を転じ、

気がつかないうちに話題を戦争の方へ持っていって、

われわれに尋ねた。

「どうしてヨーロッパでは戦争のない状態が5年と続かないのですか。

そして二つの国が争いを起こすと、

他の多くの国がこの争いに巻き込まれて、

ヨーロッパ全体の戦争になるのはなぜですか?」

「その理由は」とわれわれは説明した。

「国々が隣接し、絶えず交渉を持っているので

紛糾のきっかけが出来るのです。

とくに、それに個人的な利害や野心が混じってくるとなおさらです。

さて、ある国が他国と戦争して大いに優勢となり、

国力が強大になってくると、

他の国々はそれが自分たちにとって危険になるのを

黙って見てはおれず、

弱い国の味方をして強いほうに対して戦争をしかけるのです。

強い国のほうでも同様に同盟国を探すように努力します。

こうして戦争はしばしば全ヨーロッパに広がるのです。」

日本人はわれわれの話しを傾聴して、

ヨーロッパの国王の賢明さを賞賛してから、

「ヨーロッパに強国は全部でいくつありますか」と尋ねた。

われわれがヨーロッパ列強の名をすべて挙げると、彼らは、

「仮に日本と中国がヨーロッパ列強と国交を結んで

ヨーロッパの制度にならうと、諸国の間で戦争はますます頻繁になり、

よけいに人間の血が流れることになるのではないか」と尋ねた。

「そうです。そのようになるかもしれない。」

とわれわれは答えた。

「もしそうだとすれば」

と日本人は続けた。

「さっきから国際交流のもたらす利益を

いろいろと説明していただいたが、

日本としてはヨーロッパと交際するより、

国民の不幸を少なくするためには古来の立場を守ったほうがよい、

というのがわれわれの意見です」

正直いって私は、

この遠まわしの思いがけない反駁にどう答えてよいのか、

分からなかった。

そこで私としては、

「私がもっとよく日本語を知っていたならば、

われわれの意見をもっと正しく説明できるのですが」

と答えるより仕方が無かった。

しかし心中では、たとえ私が日本語の演説家になったとしても、

この真理に反駁することは難しいだろう、と考えたのであった。

(ヴァシリ・ミハイロヴィッチ・ゴローニン)











「「日本人はこんなに素晴らしかった」より〜ゴローニンの見た日本人〜」 - るいネット